都歯連盟会報に、4月の東京都歯科医師連盟の時局勉強会にて講演させていただいた様子を掲載いただきました。
臨床医としての道はあゆみませんでしたが、歯科医院の3代目として生まれ育った私にとって、歯科医師会・連盟という名前は子供の頃から慣れ親しんだものでした。懇意にしている先生のご厚意で、素晴らしい機会をいただくことができました。またその縁で、私とCOOの田代は都連盟の会員にならせていただいています。
人にそれぞれの考え方、ご意見があるのは自然なことであり、それを画一化するべきではないと思います。その一方で、日本社会において、歯科医師会・連盟は必要不可欠で、非常に大切な役割を果たしていることを歯科医師一人一人にご理解いただけたら・・・と願っています。
その国の社会的背景が、医療制度を左右し、その国の医療制度が、その国の医療の姿を大きく左右します。日本において歯科医療は、国民皆医療保険制度に組み込まれている以上、医療制度に取り込まれなければ国民に提供する歯科医療の価値を面として高めることはできません。
そのためには、厚生労働省・政治に歯科医療を適切に取り上げて貰い、医療制度に組み込んでいく必要があります。
政策とは、「政府が問題解決・社会をより良いものにする為にとる対応策、解決策、方向性、プラン」 です。医療政策をたてるのが厚生労働省であり、この観点から厚労省への窓口となる日本歯科医師会の大切さがわかります。そして政治とは、「各ステークホルダーの権力に合わせてどのような政策が選択されるかというパワーバランスの結果 」です。この観点から政治へのロビー活動を行う歯科医師連盟の大切さがわかります。
業界団体として利権の拡大のみ追求し続けるのならよろしくない面もあるのですが、歯科医療は国民の健康を支える大切な社会インフラであり、その活動の先には歯科医療を通じた社会・健康・福祉の発展があるため適切な活動は必要不可欠です。
そして、この数年で歯科医療に対する社会からの期待の質が大きく変化してきていると私は感じています。
その背景として、人口動態の変化など様々な要因を内包した医療費の増大があります。
GDP対比から見て、保険制度は維持し続け得るという見解もありますが、
如何に人々の健康寿命を伸ばし、医療費を抑制するか・・・それを面として可能にする日本社会を作り上げていくかが、現代日本社会の大切な課題となっています。
そこにおいて歯科医療は、
健康の入り口であり、全身健康に影響を及ぼしています。
そして、フレイルの予防においても、歯科医療は大切な役割を果たします。
医科と歯科は分かれていますが、口腔と全身に境界線はありません。医療の中の歯科医療としてどのように発展していくことが良いのかを考え、医療制度に反映していく必要があります。
歯科医療への期待が高まっていることは、「経済財政運営と改革の基本方針」。つまり骨太の方針からも読み取れます。
2017年、歯科医療にとって歴史的な一文が組み込まれました。
そして、2018年、青字の部分が追加されました。
この流れを受けて、厚生労働省内において昨年末、歯科口腔保健推進室 が 省令室 に昇格しました。そしてこの夏より、厚生労働省内の各部局はもとより、内閣府、文部科学省、経済産業省等、関係省庁との調整、連携のもとに、歯科医療の価値を正しく提供していくために動き始めています。
2025年を目標に構築されようとしている地域包括ケアシステム、そこにおいて活きるかかりつけ機能強化型歯科院、医科歯科連携の推進、口腔健康の全身影響の見出しによる口腔ケア・歯科検診の充実など・・・今、歯科医療は日本社会において、その役割を大きく変えていこうしています。
産業として建設的に変化していくことは大切ですが、これまで先人達が作り上げてきた日本の歯科医療の現在のあり方を単純に否定して、新しい歯科医療のあり方を模索することは不可能です。温故知新を旨に、現在の日本の歯科医療が次世代に引き継いでいくべき良い点、変わっていくべき点は何であるかを考え、日本の歯科医療の持つ可能性を知り、実際に行動していくこと。その先に、歯科医療の社会的価値の向上があります。
そういう意味合いで、歯科医療の変化を規定する組織として歯科医師会・連盟の果たす役割は非常に大切です。
私は仕事柄、歯科医師会・連盟においてリーダーシップを取られている先生方とお話をさせていただく機会がありますが、現在のトップの方々が如何に真摯に歯科医療の社会的価値の向上に尽力され、上記の変化の呼び水となる活動をされているかに感銘を受けています。
無論、歯科医師会・連盟においても温故知新で変わっていかなければならない部分はあるのは事実ですが、それはあらゆる組織において当たり前のことです。
私と同世代、そしてより若い世代に、歯科医師会・連盟の活動の意義を知っていただき、会員となり活動に寄与していただければと願います。これは、学術を追求し、歯科医療のボーダーを拡大して素晴らしい価値を生んでいらっしゃる先生方に対しても願うことです。そして、歯科医師会・連盟においてリーダーシップを取られている先生方には、会員の先生方の思いに応えるべく、より効果的かつ効率的で意義のある組織運営を推進していただければと願います。
日本歯科医療への否定として、欧米の歯科医療と比較するケースもありますが、個の歯科医師として見た場合、国家国民価値で見た場合、人類価値で見た場合でラショウモン・エフェクトが生じ、その良し悪しは単純に判断することはできません。この詳細について、たまに大学講義や講演をしています。
現実問題として、日本を土壌にどう変化してくかを考えることが大切です。また、日本歯科医療には日本歯科医療だから生み得る国民価値・人類の健康福祉への価値があります。
Art & Scienceでありながら、国民を守るインフラとして医療制度に組み込まれている歯科医療において、歯科医療従事者の誰もが歯科医療に良いものであってほしいと思っているはずです。異なる考えなどへの単純否定や諦めの気持ちにとらわれず、それらの思いが少しでも形になることへの希望の集まりが歯科医療界の総意であって欲しいと願います。