2010年に、中小企業経営診断シンポジウムにて受賞・発表させて頂いた論文より、日本の歯科大学教育の非効率について記載している部分を抜粋します。論の後半には相当な甘さ/視野の狭さ/古さがありますが、おおむね今の私の考えの基礎になっています。

歯科医療サービスにおいて、適切な品質の治療を提供できる事は最低条件であり、治療設備等のハード面、さらにはコミュニケーション能力・現場の雰囲気等のソフト面での充実・向上も図る必要がある。教育・学習が歯科医療サービス向上のポイントの一つである事は言うまでもない。

現在、約10万名いる日本の歯科医師の約85%は、開業医として医院を経営している。あるいは、開業医において勤務医として働いている。従って、日本の歯科医療のスタンダードは開業医で行われ ている歯科医療であると言える。従って、歯学部 においては、開業医で通用する人材の育成を目指 すべきである。しかしながら、歯学部における6 年制の教育のみで歯科医師として通用するレベル に達する事は難しい。実践レベルでの治療技術の習得は、歯学部卒業後に歯学部付属病院や開業医 等で行われる。

現在の歯科大学における教育は、以下の3点の問題を抱えている。

1点目。歯科医師には、入れ歯等を製作する歯科技工士や口腔内クリーニング等を行う歯科衛生士等と連携をとりながら、適切な品質の治療を患者に提供していくことが求められる。しかし、歯学部における教育では,実際の治療と関連性の低い知識の学習や、歯科技工士の領域である入れ歯の製作等に教育時間を費やしすぎている。結果、治療の術者という立場から歯科衛生士や歯科技工士等と連携をとり、チーム診療を行えるようになるための教育が不十分になっている。

2点目。日本の歯科大学は、医療における一診療科でありながら講座・診療科を細分化しすぎてしまい過大規模となっている。学生に対する教育は講座・診療科に連動しており、歯の削り方、入れ歯の作り方といった具合に個別に教育されており、異なる治療の連続性や関連性に焦点を当てた教育は不十分である。しかしながら、良質な歯科治療とは、異なる治療の組み合わせの結果として、良好な口腔内を作り上げ、その状態を長く維持させる事である。あるいは、根本的に虫歯等から患者の口腔を守っていく事である。歯学部は、不必要な講座・診療科の統廃合を行い、組織体系をスリム化すべきである。その結果として、合理的で効果的な教育が可能となる。しかしながら、職員のポスト等の問題により改革は先送りされ続けている。

3点目。歯科医師・歯科医院が飽和している現代の市場状況では、治療における知識・技術のみで成功することは難しい。歯科医師として開業し成功していくためには、知識・技術のみならず、経営者としてのマーケティング能力や、従業員を束ねる管理者としてのマネジメント能力も求められる。しかしながら、大学においてはそういった観点から教育が行われる事は少ない。

以上より、大学における教育に限界がある以上、大学卒業後の新人歯科医師に対する教育の質を高めることが、日本歯科界の提供する医療の質の確保・向上に必要不可欠であると言える。開業医における新人歯科医師の教育は、現場における師弟関係での伝授、実際に自分自身で治療経験を積みながらの技術習得、著名な歯科医師を中心に集まっての勉強会、自発的学習等が一般的だが、それらのみでは効率的かつ体系的に基本的な知識・技術を学ぶことは難しい。

また、薬局が小規模の個人経営の薬局と大規模 なドラッグストアチェーンへの変遷を見せたように、近年の日本の歯科界において、開業医は小規模の個人の歯科医院と大規模の歯科医療法人へ、プレーヤーの2分化が進んでいる。その2分化のうち、当論文では、後者の大規模な歯科医療法人の戦略的な側面から教育について見てみる。歯科 医師の時間の切り売りで治療を行っている歯科医 療の業態から考えて、医療法人が成長を続けるためには、如何に数多くの優秀な人材確保・維持が なされるかが大きなポイントの一つとなる。魅力 的な教育プログラムのある開業医には、「志」の 高い新人歯科医師が希望して集まり、優秀な人材 の確保・育成が可能となる。つまり、中長期的には、教育は医療法人の成長の最大の原動力となり得る。