米国の医療制度が直面している課題米国の医療制度が直面している課題
1. アクセス
2. 非効率な治療の提供方式
3. コストおよびコスト増加
4. Affordable Care Act(オバマケア)の影響

非効率な治療の提供方式についですが、まず非効率の定義は、
⑴ 効果が低く高コストな医療サービスの過剰提供
⑵ 効果が高く低コストな医療サービスの過小提供
⑶ 過剰な運営コスト
⑷ 不正請求等: $82B~$272B(8~27兆円)
⑸ 治療の提供の失敗
⑹ 治療のコーディネートの失敗

今回は、(4) 不正請求等について、日本歯科医療へのテーゼを記載してきます。

米国の医療費において、実に8~27兆円が不正請求等による本来発生してはいけないコストとして見積もられています。では、日本の歯科医療はどうであるかというと、データを元に見積る事はできませんが、不正請求が非常におこりやすい環境であると言えます。誤解が生じないように先に記載しておきますが、そのような環境においても誠実な仕事をされている歯科医師の先生方は数多くおられます。私のテーゼは、社会の中の悪い極端さに焦点を当てた扇動を目的としてはいません。大切なのは、問題の根本がどこにあるかを理解した上で、如何に国家の仕組みとして改善を行っていくかという建設性です。論じる上で描かざるを得ない一部の最悪を、日本歯科界の全体像として受け取って頂きたくはないと言う事です。

本題に入ります。日本の歯科医療において不正算定が非常におこりやすい環境である理由は、
① 治療の受け手である患者から見て治療内容自体がブラックボックスである
② 保険適応外の自費治療が明確に存在するため、混合診療が生じやすい
③ 大半の歯科診療所は小規模な家内産業であるため、実際に行われた治療が何であるかを社会保険庁が正確にモニタリングしようがない
にあります。

患者の治療費負担を3割として記載するなら、①については、歯科医師・患者間の情報の非対称性が強いため、患者からすると何をされたのか分からないが、治療費の3割を歯科医院に支払っていると言う事です。(参照:一般市場原理に基づく日本歯科医療への考察)②については、医科とは異なり、歯科においては混合治療自体に対して、根本的に様々な見解があるためグレーゾーンが非常に大きく、①③も相まって、不正算定の温床になり得ると言う事です。③については、歯科医師が患者に何をしたのかを正確にモニタリング出来ないが、治療費の7割を歯科医院に支払っていると言う事です。

①②について、最悪の例を記載します。
①の例: 愛知県豊橋で行われたインプラントの使い回しが最たる例です。歯科医師としての常識/人としての良識が欠如している例です。ただし、直後に起こったインプラント治療に対する極端なネガティブキャンペーンについては、扇動的すぎると私は感じました。誤解が無いように記載しますと、適切に行えばインプラント治療自体は、素晴らしい治療の一つです。
②の例: 削った歯の被せ物に、自費のセラミックスを被せておきながら、保険の銀歯も同時に請求する。③で客観的なモニタリングが難しいため、起こりうる典型的な不正請求です。

③について、正確なモニタリング機能をはたせないにも関わらず社会保険庁がどのように、不正算定の監査対象となる歯科医院を選択しているかを記載します。医療機関は、1月毎に社会保険庁へ、その月の治療内容を報告します。社会保険庁は、そのデータを元に複数の評価指標(例えば、患者当たりの平均請求額)を単月/複数月の推移で見て、極端に高い数字となっている上位数%の医療機関へ監査に入ります。また、内部告発や外部告発により監査が入る事もあると言われています。監査に入られると言う事は、医療機関にとって相当な負荷を与えます。つまり、実際に行っている治療をモニタリングするすべが無いため、提出された数字に基づいて判断している側面を持つという事です。

この仕組みの良い面は、数字ベースでの管理と成る為、総医療費のコントロールをかけやすいと言う点です。これは、国家予算の観点から見ると良い事です。

この仕組みの悪い面は、治療の実態の把握に基づいておらず、上位数%の監査対象にならないギリギリを狙うチキンレースが起こりうる環境を作っている点。その逆に、平均請求額を安全水準に落とすため、歯科医師目線では来院回数1回で行える治療にも関わらず、複数回の来院に分けて治療しなければならず、生産性を求められない場合がある点。公然とはされていませんが、歯科医師会という任意団体に属していない医療機関はターゲットにされ易いなど悪い意味での村社会的要素が発生しうる点。等が挙げられます。

また、この仕組みの抱える必要悪としては、日本の歯科保険制度は広範囲の治療をカバーしているため、安全コストや医療機関の経営上完全な赤字治療となる単価設定をされている治療もあり、グレーゾーンの存在が安全確保/経営上における健全レベルでの算定を可能にしているという面もあり得るという点です。

要するに、国家の観点から医療費のコントロールをかけやすい枠組みを作り、その運営自体は混沌としています。

但し、私はこれについては、運営の混沌の完全な解消は不可能であり、請求における治療実態の反映/効率化/品質の向上を促進する枠組み作りに焦点を当てるべきであると考えています。運営の混沌の解消は不可能とした理由は、2点あります。1点目は、歯科医療の業態を考えると、正確なモニタリングは不可能だからです。可能にするにはITインフラの整備も含めて、莫大な国家予算を割く必要があり非現実的です。2点目は、国家観点と現場の運営が完全に一致しうる枠組みが、現段階の私には思いつかないからです。

以上を踏まえた上で、考えられる対応策は、
(a) 医療費のコントロールをかけやすい枠組みは維持し、より治療実態を反映させ易い保険治療費設定を行う
(b) 歯科においては、混合診療の線引きを明確にした上で解禁する。
です。

(a) は、3つの要素から成り立ちます。
(ⅰ) EBD/ビックデータの活用に基づく、保険治療における資本投下配分の変更。(参照: 米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察  2-(2) 過小提供)
(ⅱ) 確実に連続する治療をまとめたバンドリング請求方式の導入。
(ⅲ) (ⅰ)(ⅱ)に基づいて社会保険庁がチェックする指標指標と基準の再構築

となります。(ⅰ)については、確実性の高いデータの取得さえ可能になれば長期的に実現しうると考えています。ただし、そのデータも現行の医療保険制度下におけるデータとなりますので、相当な難しさを有していますが不可能では無いと考えています。(ⅱ)については、短期的に実行可能です。また、歯科医師の生産性向上にもつながり得ます。

(b)は、(a)-(ⅱ)との関連性を重視しながらの構築と成ります。医科とは異なり、広義の意味での混合治療が常態化している可能性のある歯科医療において、グレーゾーンとして無視し続ける事の方に問題があります。

今回のテーゼにおいては、現実を描く事と、煽動的にならない事のバランスをとるための言葉の選択に難しさを感じました。まだまだ深めなければ成らない項目です。ある歯科医師の方から、共感とともに「1大学人として、1歯科医師として、1事業主として、協力できることがあればお声掛けください。」とのメッセージを頂く事ができました。まだまだ未熟な私に、身に余る言葉ですが、嬉しく受け止めております。