日本において昨日、マザーズ市場への上場を発表したメドピア株式会社の医師向けサービスのビジネスモデルは、今後の歯科界のあり方に対する素晴らしい示唆を含んでいます。メドピアは、私が数年前から注目していた会社の一つで、今回のテーゼにも深く関わる内容ですので、是非御覧下さい。

米国の医療制度が直面している課題米国の医療制度が直面している課題
1. アクセス
2. 非効率な治療の提供方式
3. コストおよびコスト増加
4. Affordable Care Act(オバマケア)の影響

非効率な治療の提供方式についですが、まず非効率の定義は、
⑴ 効果が低く高コストな医療サービスの過剰提供
⑵ 効果が高く低コストな医療サービスの過小提供
⑶ 過剰な運営コスト
⑷ 不正請求等
⑸ 治療の提供の失敗: $102B~154B(10-15.5兆円)
⑹ 治療のコーディネートの失敗

今回は、(5)治療の提供の失敗について、日本歯科医療へのテーゼを記載してきます。

(5) 治療の提供の失敗についてですが、具体的には、より安くより良い治療方式が広まっていない為に、結果として患者に、より侵襲性が高くコストも高い治療を提供してしまっているという事です。医科における分かりやすい例は、腹腔鏡手術と開腹手術です。しかし、同じ切り口で、日本の歯科医療に対するテーゼを考える事は困難です。と言うのは、日本の歯科医療においては、似たようなインパクトを持ちうる歯科治療は保険の適応範囲内では存在しないからです。国民の大半を対象とした保険制度に則った歯科医療で考えるなら、ここ数十年の歯科医学の進化 = 材料の性質向上に伴う品質の向上とも言え、歯科医師の仕事自体に大きな変化はありません。

その上で、保険治療適応内の歯科治療の多くは金属・樹脂などの歯科材料を使用します。従って、基本的に材料性質向上と材料費が比例すると考えるのであれば、“より安くより良い治療“という事自体が、論理矛盾を起こします。その一方で、日本においては歯科医療費が20年近くにわたり据え置かれています。つまり、より効果が高く高コストな医療サービスを、実質経済の成長を考えると、より低価格で提供している。とも言えます。

米国の医療制度が直面している課題の定義に対する根本的な論理矛盾を起こしてしまう以上、切り口を切り替える必要性があります。米国の医療制度下においてより安くより良い治療方式が広まっていない原因の一つは、医師の知識・技術の刷新が適切に行われていない事にあります。この点については、日本の歯科医療も同じですので、今回のテーゼはこの切り口から考えていきます。

歯科医師は永久資格であるため、一度資格を習得すると、生涯にわたり更新試験を受ける事はありません。また、知識・技術に対する強制力を持つ学習義務も無いため、数十年前に習得した知識・技術を元にした治療を延々が行われている事が多々あります。時代と共に、刷新されていく知識・技術において、過去において正しいとされていた治療で、現在においては正しくないというものもあります。従って、歯科医師の先生が正しいと信じて提供し続けている治療が、実は誤っている治療であるという事はあり得ます。その一方で、モラルハザードを起こしている一部の歯科医師(参照: 米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察 2-(4) 不正請求等)を除外すると、歯科医師の先生方は、大なり小なり職人気質を持っており、誰も自分が間違った事をしているとは思っていません。それは、多くの産業において共通する、世代間の仕事の仕方・基礎となる知識の違いであり、歯科のみが例外的に問題を抱えているものではありません。

とは言え、医療従事者として、知識・技術を刷新する責任はあり、その義務感を忘れてはいけません。従って、国の仕組みとして、知識・技術の学習機会を仕組みとして設けることは大切です。ただし、知識・技術の刷新機会のコンセプトにおいて、過剰提供レベルの歯科医療を基準に刷新を要求するべきではありません。(参照: 米国の医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察 2-(9)過剰提供)行うべきは、保険診療で提供可能範囲を基準とした、知識・技術の刷新の機会の設定です。(個々の歯科医師が、それ以上の質の治療を提供する為に知識・技術を刷新し、実際に治療を通じて提供する事については、歯科医師患者間の十分な信頼関係あるいは十分な説明の上に、患者自身が歯科医師との信頼関係あるいは治療自体に投資する価値を見いだしたのであれば、肯定されるべきです。)

また、歯科医師は、知識・技術に加えて、それぞれに異なる治療計画策定の癖を持っています。分かりやすく言うなら、症例毎にどの治療をどの順番に当てはめるかという治療計画の建て方に個人差があると言う事です。さらに分かりやすく言うなら、虫歯等が原因で歯を失った患者さんに、入れ歯を多用する傾向が強い歯科医師もいれば、ブリッジを多用する傾向が強い歯科医師もいるという事です。複雑な症例になると、歯科医師毎に一連の治療の結果として作られる口腔自体に大きな違いが生じます。この点において難しいのは、歯科医師によっては治療がルーティン化しており、治療計画を策定しているという感覚をもっていない場合があるという事です。職人業務のルーティン化は生産性向上として考えると良い面もあるのですが、大切なのは、実質価値の高い治療結果を生める治療計画策定の癖を身につけているか、あるいは、自らの癖を見返しそれが悪癖であるか良壁であるかを見返す機会があるかと言う事です。

現在の歯科界においては、良癖を大多数の歯科医師が効率的に身につけられる仕組みは存在しません。学部教育が実践教育としての意味をなしていない日本において、歯科医師の大半を占める一般開業医に焦点を当てて考えるのであれば、歯科医師の生涯を通じて提供する価値を形作る歯科医師としての知識・技術・治療計画策定の基礎は卒後数年以内にほぼ決まると言って良いです。(参照: 抜粋 大規模歯科医療法人の改革支援 ~教育プログラムの策定を通して~ より)数年以内としたのは、最初の数年間が、技術職であるが故の個々の癖がつく期間であるからです。

日本の歯科医療においては、歯学部を卒業し、国家試験に合格した新人歯科医師は歯科臨床研修医制度に基づき、研修医として1年、あるいは2年間を過ごします。歯学部付属病院における臨床研修医制度については、研修制度導入以前に大学6年生が行っていた教育を卒後の1年に移行しただけで、学部教育の非効率の引き延ばしに映ります。研修医に対する明確な教育のコンテンツ/実践機会を作れないまま作られてしまった臨床研修制度といえます。(病院外科における臨床研修制度については、歯科医師に求める方向性が一般開業医において求められる方向性とは異なるため割愛します。)開業医における新人歯科医師の教育は、師匠にあたる歯科医師の技術・治療計画の策定の癖を師弟関係に基づいてコピーして受け継いでいくという物です。あるいは、何も伝授されず、放置されて自力で治療計画策定の癖を身につけるという事すらあります。

私自身、前職にて日本最大規模の歯科医療法人において教育システムの構築を行い、教育という切り口から日本全国の大規模歯科医療法人の理事長/医療関連会社のトップマネジメントとの交流をしてきましたが、体系的と言える教育制度有している開業医は日本全国に数える程しかありません。当時は、私自身、日本初の歯科医師教育へのi-Padの活用/教育システムの中小企業経営診断シンポジウムでの受賞などを通じて、自らが作り上げてきた仕組みに強い誇りを持っていました。

しかし、今の目線で見返してみると全く持って不足であった事が分かります。その理由は、一般開業医向けの歯科医師教育とにおいては、
① 個々の歯科医療法人レベルで構築出来る部分
② より大きな枠組みで構築すべき部分
とに分かれているからです。私が行ってきたのは①のみです。②については、まさにメドピア株式会社が行っている“医師集合知サービス”が答えになる可能性があると考えています。

一般開業医における歯科医師の育成については、①についての構築支援に加えて、②のようなプラットフォームを作る事。さらにそこに、ビックデータの活用に基づく、保険治療における資本投下配分の変更と整合性を取りながら抽出された類似症例におけるクリティカルパスとなる治療計画の情報蓄積/提供機能を与える事ではないかと考えています。さらに、個々の治療における効率的な治療のプロセス/手元の動きなどを動画として分類しストレージさせる事で、学びの質は向上します。また、最新の知識・技術云々ではなく、真剣に歯科治療を提供されてきた熟練の歯科医師の経験に基づいた知識には素晴らしい価値があるため、そういった知識も蓄積・共有できる仕組みも持たせるべきです。これらの活用は、若い歯科医師に自分自身のスタイルを見返せる機会を与える仕組みになるばかりか、ベテランの歯科医師が自らの治療を見返し改善する機会を得る仕組みにもなります。

ただし、上記をメドピアのようにビジネス化する場合、製薬企業から見ての魅力が無い上に、医療機器メーカーから見ても比較的小さいマーケットである歯科医療においては、歯科のみでプラットフォームを形成する場合、国費を注入せざるを得ない可能性があります。その為には、日本の歯科医療の“治療の提供の失敗”の具体的な金額(米国医療においては、$102B~154B(10-15.5兆円))を推定した上で、反映効果を試算する必要があります。重ねて、様々なステークホルダーの説得等、多くの障害があります。

しかし、医科との共有プラットフォームとした場合、純粋にビジネスとして成り立ちうるのではないかと考えています。その理由は、日本の歯科医療における慢性的かつ根本的なペインの解消のみならず、サービスに幅を持たせる事で、まさにこれからの日本社会に置いて求められている医科歯科連携(在宅医療/周術期医療など)を推進するプラットフォームになる得るからです。歯科単体では不可能なことでも、ヘルスケアの一翼を担う歯科と位置づけることで、現実的なビジネスモデルを作れる可能性があります。どれくらいの歯科医師が実際に、それを使用するかについては、指導医/研修医については使用を義務付けるべきですが、それ以外の歯科医師については、医科においてメドピアが上場に至れた事が良い示唆になるではないでしょうか。

サービスに社会的価値があるのであれば、どのようにサービスの受け手に受入れられ、かつプロフィットを生む仕組みを作れるかの勝負になります。例としては、医療機関数十カ所と結んで医療関係ニュースの配信や最新の海外医学誌の翻訳提供サービスを提供していたウェブエムディが、サービスの受け手である医師から会員費を取るビジネスモデルにした事に対して、エムスリーが会費を取らずに同様のサービスを提供し市場シェアを高めたという事例があります。最終的には、ウェブエムディはエムスリーに吸収されました。

 

最後の落ちとして、ここまでの記載の全て覆すようですが、根本的に必要なのは、学部教育の抜本的改革であることにはかわりありません。

 

以上を踏まえて、今回のテーゼは以下の通りです。
(a) 歯科医師の知識技術職故の職人として学びに加えて、これからの時代からこそ可能なITプラットフォーム/データ分析の手法を活かすことで、治療の提供の失敗による非効率の解消を目指すべきである。
(b) 保険制度改革・教育改革・ビジネスという3点全てがそろって初めて、日本の歯科医療の改善は成り立つ。