米国の医療制度が直面している課題米国の医療制度が直面している課題
1. アクセス
2. 非効率な治療の提供方式
3. コストおよびコスト増加
4. Affordable Care Act(オバマケア)の影響

非効率な治療の提供方式についですが、まず非効率の定義は、
⑴ 効果が低く高コストな医療サービスの過剰提供
⑵ 効果が高く低コストな医療サービスの過小提供
⑶ 過剰な運営コスト
⑷ 不正請求等
⑸ 治療の提供の失敗
⑹ 治療のコーディネートの失敗

今回は、(2)効果が高く低コストな医療サービスの過小提供 についてです。3つの解決策を提示し、日本歯科医療へのテーゼとします。

① 1つ目の解決策: 「EBD/ビックデータの活用に基づく、保険治療における資本投下配分の変更」

そもそも歯科治療は効果測定をしづらい分野です。これは、医科においても同様で、治療の効果を測定したデータを元に、効率的な医療制度を作ろうとしている米国においても、何を測定するべきかについて議論は継続的に行われており、実際に様々な統計が取られています。しかしながら、オバマケアを作り上げてきたProf. Wesを持ってして、「医療サービスの効果測定は、非常に難しいです。」との事でした。(参照: 一般市場原理に基づく日本歯科医療への考察)

とは言え、まず歯科医療における効果の切り口を明確化する必要があります。良質な歯科治療とは、異なる治療の組み合わせの結果として、良好な口腔内を作り上げ、その状態を長く維持させる事です。あるいは、根本的に虫歯等から患者の口腔を守っていく事です。つまり、歯科治療の効果の定義を考える際には、総合的に回復された口腔機能の維持期間を効果(総合的効果)と、個々の治療毎の効果の2つの切り口から考えるべきです。

個々の治療の品質測定の切り口については、Evidence Based Dentistry (EBD)という概念を切り口とできます。EMDとは、医療行為や薬剤が医学的にも経済的にも有効かどうかを厳しく評価し、有効と証明された医療の事をさします。今回の議題である低品質/高コストの医療サービスとは、まさに厳密な証明なしに実施される医療行為の事です。EBDはデータによって、数ランクに分けられています。例えば新薬治験の例を示します。患者を二分し、薬と偽薬の効果を比較する比較臨床試験が多数あるのが最高ランクで、少数の比較臨床試験、比較しない臨床試験などの順で信頼度は低くなるという事です。別の言い方をするなら、治療の統計データから割り出される証拠に基づいた医療といえば分かりやすいでしょうか。EBDに基づいた治療の提供には価値があります。(現実的には、EBDという言葉が、本来の意味を失い歯科医師の免罪符であるかのように一人歩きしている時もあります。当投稿におけるEBDは、先述の定義通りの意味合いとなります。)日本の歯科医療においても、IPC法のようにEBDに基づいて保険の適応範囲内に組み込まれた治療もあります。つまり、総合的効果を作り上げる為の一連の歯科治療において、パーツとなる治療の選定に役立つと言えます。その反面、総合的効果の測定には結びつけづらいのが難点です。

それでは、総合的効果の測定はどうすれば良いのでしょうか。未完成の学問である歯科医学において、総合的効果の測定をその反映に結びつけられる方法があるとすれば、ビックデータの活用ではないかと考えています。理想的には、保険で提供出来る範囲内の適正品質の治療であることを前提とした治療計画/実際の治療/メインテナンスのデータを蓄積し、メインテナンスタイミング/維持期間等を分析し、類似する症例におけるクリティカルパスとなる治療計画の抽出ではないかと考えられます。

以上を踏まえ、1つ目の解決策は、「ビックデータとEBDの活用により、類似する症例における治療計画のクリティカルパスの抽出と、パーツとなる各治療を選定し、保険治療における資本投下配分の変更を行う(言い換えるなら、保険制度の点数配分に反映させる)」というものです。この枠組下においては、自然に予防治療/初期治療など等、医療の価値が高くて当たり前と思える治療費は高まり、効果の低い治療は排除されていきます。また、クリティカルパスに基づき国民に強制的に介入できる管理型システムに基づいて予防歯科/基本治療の一部を提供することは大きな効果を生むでしょう。(参照: 米国医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察 2-(1) 過剰提供)

但し、データの取得法等を含め、案としての短期的な実行可能性は低いと思われます。但し、10年20年単位で考えるのであれば、長期的にはこういった仕組みが出来上がっていてもおかしくありません。特に米国では、必ずできるだろうと思える内容です。日本において、どうすれば実行可能性を高めることができるかを現在も思案中です。

② 2つ目の解決策:「保険治療における資本投下配分の変更に基づき、専門医活用性を高める」

日本と米国における歯科医療の提供方式の最大の違いは、
(a) 日本においては、国民皆保険制度にてそれぞれの治療単価が決まっている。
(b) 日本においては、歯科保険制度で広範囲の治療がカバーされている。
(c) 日本においては、歯科保険制度において、認定医・専門医(大学院などで、細分化された歯科治療の一部に特化して学んだ事によって得られる専門者としての認定)とGP(General Practitioner の略で、専門性は有さずどのような治療でも行う歯科医師というイメージ)間での、治療単価に違いが生じない。

という3点です。(以下の記載は、一部口腔外科領域などは含めません。)これはつまり、日本の歯科界は認定医/専門医といった歯科医師の専門性が活かされづらい構造になっていると言う事です。この点、米国においては、保険対応範囲の狭さにより、多くの歯科治療費の設定について自由度が高いため、GPと専門医の棲み分けが明確でGPと専門医の連携が重視されています。

結果として、歯科医師が専門性を活かせられる代わりに国民にとっての治療へのアクセスが最悪な米国と、歯科医師の専門性が活かしづらい代わりに国民にとっての治療へのアクセスが良い日本という図式が成り立ちます。(参照: 米国医療制度が直面している課題に基づく日本歯科医療への考察 1.アクセス)無論、日本の保険制度を米国型の保険制度に移行するべきではありませんが、各治療において専門性の高い術者による国民への治療提供効率を高める事は良い事です。その為には、歯科診療所の標榜可能項目の追加/認定医・専門医の治療とGPとの治療間での保険治療費の多少の違いをつける事は必要ではないかと思います。とは言え認定医・専門医の認定機関の学会の中には、一部歯科医師の自己の重要観を満たす為に創設され、存在しているとしか思えないものもあります。従って、どの治療が実際に高い専門性が必要として捉えるかには相当な難しさがあります。1つ目の解決策であるEBDとビックデータ解析は、その選別の切り口になり得ると考えています。

また、この2つ目の非効率への解決策は、やらなければ非効率は改善出来ないが、やり過ぎても非効率を生みうるという諸刃の要素を持っています。さらに、プレーヤーが細分化されている歯科医療においては、1つ目の解決策における総合的効果の測定と矛盾する解決策でもあるので注意が必要です。その矛盾対応として、3つ目の解決策が考えられます。

 

③ 3つ目の解決策: 「歯科医療マネジメント会社の参入規制緩和/促進」

米国においては、一つの医療法人内においてGPと専門医が共存し、連携を深めている事が多々あります。それは、私が外部理事を勤めるスワン会において、General Manager時代に考え目指していた理想的な姿でもあります。現在、日米共に歯科医院は中・大規模化の傾向にあります。そこにおいて、オペレーションの効率化を図る歯科医療マネジメント会社の存在意義が高まります。例えば、米国最大規模の歯科医療マネジメント会社であるAmerican Dental Partners Inc. は、27の歯科医療法人をサポートし、22州において300件を越える歯科診療所等のオペレーションに関わっており、その年間売上は300億円を超える上場企業です。

株式会社の病院経営参画については、賛否両論があります。私個人は、この議論については明確な賛成派です。それは、一部私個人のエゴにも基づいています。もし日本にそのようなチャンスがあれば、私が学び経験してきた事を最大限に発揮できる場に成りうるからです。ただそれ以上に、”医療を提供する者として、より効率的に高品質の治療を提供できる環境を整えることも、プロフェッショナルとしての仕事の一つであり、そのためには、ビジネスやマネジメントを学び応用することも大切”という考えに基づきます。私は、医療をInnovateする上で必要なのは現場へのマネジメントの導入とプロフェッショナル自身の関連ビジネスへの参入であると考えています。上記のAmerican Dental Partners Inc.にしても、CEOこそ投資銀行出資ですが、取締役に歯科医師が名を連ねています。

無論、株式会社の病院経営参画を認める事が、効率的に適正品質の治療を提供できる環境を整えることに結びつかず、マネジメントの誤った活用により社会的弊害を生む可能性もあります。とは言え、現状の非効率を放置するよりよほど良いと考えています。否定論者の方の話をお伺いした事がありますが、医療従事者としての精神論、あるいはアメリカの保険制度をベースに陰の面に焦点を当てた話される方が多く、どのようにすれば日本の保険制度に合わせ、効率を高められる導入ができるかという考えははなから否定されているように感じられました。大切なのは、双方を知り、取捨選択する事です。

今回は、今までで一番記載しづらいテーマであった上、現段階での考えが浅すぎると実感しています大切なのは、今をベースに、B-Schoolの卒業時/数年後にどのような考えに至っているかであると考えています。